パックラフトで湖に出る際の注意点

 

パックラフトを始める際、初心者でも始めやすいのが湖です。川の様に流れがあるわけでもなく、海の様に沖に流されたら帰ってこれない訳でもないので、他のフィールドに比べたらリスクは低くなります。

基本となるパドリングを覚えたり、再乗艇やスローバッグの練習など、万が一の事態に備えた救助訓練、セイルを使って風に乗る練習、自転車を積んだ状態で漕ぐ練習など、川や海で実践する前に、事前練習するのに適したフィールドです。
キャンプしたり、バスフィッシングやワカサギ釣り、登山をする方なら湖を渡った先からでしか入ることのできない沢を登るなどもロマンがありますね!

ゆるふわっと楽しさしかない安全なフィールドにも感じますが、油断はできません。
ウォーターアクティビティである以上、リスクは必ず存在します。

湖で注意しなければならないポイントについて確認しておきましょう。

 

 

① 溺れる危険

 

 

湖といえども動力船が走れば波は立ちます。そうでなくてもふとバランスを崩した瞬間に転覆する可能性もあります。その時、多くの場所では足が届きません。安定した湖といえども、PFD(パーソナルフローテーションデバイス = ライフジャケット)の着用は必須となります。
キャンプのついでにちょっと湖で漕いでみるとか、釣りの為に湖へ繰り出すなど、本格的なウォーターアクティビティを意識していない方ほど油断しがちだと思いますが、真水で人は2%の浮力しか得られないですし、着衣のまま泳ぐのは想像以上に体力を奪われるものです。
湖のど真ん中で転覆し、パックラフトが風に流された場合、時には何キロも泳いで岸に辿り着かなければならない場合があります。PFDはどんな場所でも絶対に着用しましょう!

 

 

② 低体温症の危険

 

 

湖における水難事故で、溺死についで死亡率が高いのが低体温症です。水は空気の20倍以上も熱伝導率が高く、僅かな時間で死に至ります。
確かに湖には流れがないので、PFDさえ正しく着用していれば溺死のリスクはほとんどありませんが、転覆時にパックラフトが風に流されて自分だけ湖の真ん中に取り残されてしまうなどのトラブルが起こりえます。パドルの破損なども起こりえます。釣りなどの場合、鉤でパックラフトに穴を開けてしまう可能性も十分にあります。技術的に未熟で再乗艇できないなども考えられます。

 

まず重要なのは、そもそもこの様な事態に至らない様に備えておくことです。
パックラフトやパドルにリーシュを繋いでおく、再乗艇しやすい様にパドルフロートを備えておく、予備パドルを積んでおく、パンク修理キットを用意しておくこと、ハンドポンプを備え、空気を再充填できる様にすること、これらの装備が失われない様、防水性の高いバックパックなどにまとめておくことなど、できる対策はたくさんあります。

重要な対策の一つに適切な服装もあります。晩秋から初春の時期にかけては湖でもドライスーツの着用が望ましいでしょう。晩春や初秋の時期であっても、レインスーツをジャケットなど着用することで水の流れを最小化し、熱が奪われるスピードを最小化するなどの対策を行うべきでしょう。
夏はそこまでリスクが高くありませんが、ネオプレン素材のショートパンツなどはおすすめ。PFDと合わさることで体幹部を十分に保温できます。

通信の確保も重要です。すぐに救助が呼べる様に、携帯電話は防水対策を施し、リーシュなどで繋いでPFDのポケットに入れておきましょう。湖の中央付近でも携帯電話の電波が届くか、事前に確認もしておきます。
低体温症のリスクは時間との勝負です。岸が近ければ泳いでしまうのも良いですが、それでは時間がかかりすぎると判断した場合にはすぐに救助要請を行いましょう。

 

事故は起こるものと考え、予め対策しておくことで、少なくとも湖においては致命的な事故に至ることは稀です。
怠らず、しっかりと準備を行いましょう!

 

 

③ パドル破損の可能性

 

 

パックラフトの場合、その携行性を活かす為にパドルも4ピースの軽量なカーボンパドルを使用することが一般的です。しかし分割箇所が多ければ多いほど強度面では不利です。またカーボンという素材もまた、高い強度がある一方で割れやすいと言う欠点も持ち合わせています。
ダウンリバーではブレードの破損が多いのですが、フラットウォーターではシャフトとパドルの継ぎ目で破損が起きやすくなります。徐々に疲労が蓄積していって、ある日突然折れるのが怖いところ。大きな湖のど真ん中でパドルが折れたら、舟を引きながら泳いで自力脱出するのは困難です。
でも正直、パドルが折れたから助けて欲しいと救助要請しにくいですよね…。

アウトドアアクティビティは自己責任の世界。ここで言う自己責任とは、可能な限り第三者に頼らずに自己完結すると言うこと。もちろん命に関わる事態に陥れば迷わず救助要請すべきですが、事前に対策できることはしっかりと対策し、できる限り事故解決できる様にしておきましょう。

パドルの折れ対策には、シンプルに予備パドルを用意することを推奨します。
実はダウンリバー用とフラットウォーター用では少しパドルの形状が異なります。もちろんどちらか一方だけ購入しても問題ないのですが、湖や海で漕ぐ場合には細長いブレードで全長もやや長めの方が前へ進む力が強くなり効率良く漕ぐことができます。(細いブレードの方が腕にかかる負担が小さく、長いブレードの方が1ピッチあたりのストロークを長くとることができる。)

ただそのパドルをダウンリバーで使用すると、その長さゆえに川底を叩いてしまう場合が多く、ブレードの破損に繋がります。この為、ダウンリバーでは太く短いブレードのパドルを使用し、浅い場所でも素早くパワフルに漕ぐ事ができるパドルを使用します。

パックラフトは、良くも悪くも " 器用貧乏な優等生 " 。
激流のホワイトウォーター向けのパックラフトを海や湖で使用することもできるし、フラットウォーターでの航行能力に特化したパックラフトでダウンリバーする事もできます。
せっかくパックラフトを選択するならば、ダウンリバーだけとかフラットウォーターだけでなく、それぞれのフィールドを存分に楽しんでもらいたいと思います。
そこで求められるのがフィールドに合わせたパドルです。

つまり様々なフィールドで遊ぶ為には、結局2種類のパドルを揃えた方が良いと言うことになります。
ダウンリバーの場合は岸が近く、パドルを失ってもどうにかなる場合が多いのですが、フラットウォーターにおいては最悪の事態となります。少なくとも海や湖でパックラフトを使用する際、現実的に泳いで脱出できる範囲より沖に出るのであれば予備のパドルは持ちましょう。

 

 

④ パンクの危険

 

 

 

パックラフトはインフレータブルボートなので、常にパンクのリスクを伴います。実際にはそう簡単に穴が開くものではありませんが、例えば釣り針や棘などを引っ掛ければ当然最も簡単にピンホール が空きます。それでも一度に空気が抜けてしまうものでは無く、徐々に空気が抜けていくものではありますが、それが湖のど真ん中で起きると危険です。

まず最初に注意したいのは、絶対にパックラフトを引きずらないこと。特に荷物を乗せたまま岸を引きずると、ボトム生地にはいとも簡単に穴が開きます。仮に空の状態であっても、岸に釣り針が捨てられていたり、割れたガラス片があれば穴を開けてしまう可能性があります。
パックラフトは引きずらず、必ず持ち上げた状態でそっと水面に置くことが重要です。

続いてピンホール対策をしっかりと準備しておくことが重要です。
チューブが切り裂かれる様なトラブルは、ガラス片や海での岩礁での貝殻など、岸に近いところで起こります。そしてその場合、一気に空気が抜けるのでパンクにすぐ気がつきます。
一方で釣り針や植物の鋭い棘で穴を開けてしまった場合、空気の漏れに気がつかないくらい徐々に空気が抜けていきます。パンクしたその瞬間には分からず、しばらく時間が経った後に空気圧が下がっている事に気がつきます。

実はこのピンホール、簡単に応急処置できます。
穴が空いている箇所の水気をタオルで拭き取り、ダクトテープを貼っておけばもう空気は漏れてきません。帰宅後に付属の補修シートを貼れば遠目では分からない状態にできますが、気にならなければこのままにしても問題無いくらいしっかり空気の漏れを防げます。この状態で再度空気を入れれば水上でも復旧できます!

厄介なのは水中にある部分にピンホールが空いた場合。
この場合は空気をひとまず入れ、再び空気圧が下がる前に岸を目指すことが重要です。十分に技術と経験がある方であれば一度水中におり、パックラフトをひっくり返してパンク箇所を見つけ、補修した後に再びパックラフトを元の状態に戻して再乗艇すると言う方法もありますが、危険を伴うし荷物の紛失にも繋がります。
常に空気圧を気にして行動し、異変に気がついたらすぐに岸へ戻る判断が重要です。

 

⑤ 温度による内圧減少

 

 

空気圧の低下はパンク以外でも起こります。春から秋の暖かいシーズンでは、原則として外気温より水温の方が低い状態となります。内部に入れた空気が水で冷やされることで、驚くほど空気圧は低下します。
特に湖の場合、岸に近い浅い所より、深さのある中央部に近づくほどに水温が下がる傾向にあり、湖の中央部に近くなるにつれて一気に空気圧低下する様な事が起こります。

乗船前には十分にチューブに水をかけ、内部の空気を冷やして収縮させます。その状態で再度空気を入れてから出航しましょう。ただ漕ぎ始めてしばらくすると、さらにもう少し空気圧が下がります。一度岸に寄せ、さらに空気を追加補充しましょう。


空気圧が下がったからといって直ちに沈没することは考えにくいですが、空気圧が下がって不安定になている状態で動力船の波などを受ければ転覆のリスクもあります。空気圧が下がった状態では再乗艇も困難でしょう。
気温が高いほど空気圧は下がりやすいものだと認識し、早め早めに空気の補充を行う事が重要です。

また合わせて、休憩時に陸にあげておく際も注意が必要です。
内部の空気が冷えている状態で空気圧を高めている状態にあるので、そのまま岸にあげておくと内部の空気が膨張してバーストする危険があります。必ず一度バルブを開き、空気圧を下げた状態にしましょう。少し下げた程度では、想像以上に膨張します。特に日陰に置けない場合には、明らかにヘコむくらい空気を抜きましょう。

ただ当然、空気を抜いてしまうと再び何回かに分けて空気を入れる作業を再び行わなければなりません。
この作業はそれなりに煩わしいもの。
岸にロープを繋げる木や大きな石があるのであれば、スローバッグのロープなどを使用して係留し、パックラフトを水に浮かべたままにしておくのも良い方法です。風に流されない様に十分注意しておきましょう。

 

⑤ ダム湖の場合、細かいルールが指定されている場合がある

 

 

天然湖とは違い、ダム湖の多くはダムの運営会社の土地です。その為、土地所有者によりルールが設けられている場合がほとんどです。
例えば自艇の持ち込みができなかったり、そもそも舟の航行を禁止していたり、航行可能でも指定場所以外からの出航・上陸を禁止していたり、航行可能区域を制限していたりします。このルールはダム湖によって全て異なります。
ダム湖に出底する場合、必ず事前にダム運営会社のホームページなどで調べるか、問い合わせて確認を行なってください。不法侵入を問われるのみならず、ダムの放流に巻き込まれて死亡事故に至るなどの危険があるかも知れません。

 

 

パックラフトを始めるにあたって、まずは湖で練習するのがもっともリスクが低く、初心者にとってハードルが低いフィールドであることは事実です。しかしだからと言って危険がないわけではありません。
大切なことは、どの様な危険があるのかをあらかじめ知っておき、その対策を行なっておくこと。

安全第一に取り組めば、自分自身の舟で自由に水上を進む事ができる楽しみを得られます。
釣りやキャンプ、登山、自転車など他のアクティビティを絡めることによってその遊びは無限の広がりを見せてくれます。
是非、パックラフトを手に取り、まずは湖へ漕ぎ出してみてください。素晴らしく充実した日々が、きっと今から始まります!!