『自分の船を手にして、大海原に航海に出たい!』
そんな大層な夢も、パックラフトなら実現可能です!
軽量コンパクトで様々な水辺で楽しむことができるパックラフトは、海でも使用することができます。とはいえ、パックラフトにとって海は決して得意なフィールドとは言えません。海には大きな船も航行しており、その中でパックラフトは最弱の存在とも言えます。
個人で現実的に所有できる舟として、シーカヤックやフィッシングカヤック、ミニボート(2馬力の船外機を設けたエンジン付きゴムボート)など、他にも様々な選択肢があります。これらの船はパックラフトと比べて高い性能を持ち、行動範囲ももっと広げることができます。
しかしこれらの船は運搬に必ず車が必要となります。
シーカヤックやフィッシングカヤックは 20 ~ 25kg 程度あり、サイズも大きいので車に専用のルーフキャリアを備えるか、トレーラーを購入して車の後ろに固定して引っ張っていかなくてはなりません。ミニボートも、船だけで 15kg 程度。それとは別途、エンジンが 10kg 程度。自家用車無しでの運用は、現実的にほぼ不可能です。
それに対してパックラフトは、バックパックに詰めて運搬可能で、電車やバスなどの公共交通機関はもちろん、海から近い場所に住んでいる方であれば自転車でアクセスすることだって可能になります!
これは大きなメリットがあるのでは無いでしょうか?
それは車を所有している人にとっても同じです。
例えば出発点をA湾とします。今日は南風なので、A湾から海岸線沖300m程度の位置を北上しながら進みます。
途中でキャンプ可能な浜辺で一泊しつつ、翌日はさらに北上してB港まで向かうとします。
この時、パックラフトを使用していれば、最寄りの公共交通機関を使用して車まで戻るのも容易です。穏やかな海で安定性の高いパックラフトの組み合わせなら、自転車を積んでのバイクラフティングで、下船後には自転車で車まで戻ることだって可能です。
これはパックラフトだからできる大きなメリットです!!
確かにパックラフトは他の船に比べて航行能力が高いとは言えませんが、それはカヤックなども同じ。結局モーターボートには敵いませんし、大型客船の様に世界を旅できる訳ではありません。人力であることを理解し、身の丈にあった範囲で運用すれば良いだけのことです。
パックラフトを海で使用する上において、他のフィールドと比較して特に気をつけなければならない点がいくつかあります。しっかりと頭に入れ、安全に楽しみましょう!!
① 風と波
他の船種に比べ、海面に出ている堆積が大きいパックラフトは、特に風弱い傾向にあります。
一般的に手漕ぎのボートで海に出る際の基準として、風速 5m までの運用に止める様に言われてます。
これは安全に対する基準であり、パックラフトを海で快適に使用するには、風速 3m までが安全に運用できる範囲だと思います。天気予報における風速は地上のものです。海洋ではさらに風が強くなります。必ず海洋気象の予報も確認しましょう。特に沖に向かって風が流れる状況下では、戻って来れずに漂流する危険もあるので注意が必要です。
また沖に向かって風が吹く陸風が発生している時は、沖からやってくる波に風があたり、波が大きく立ち上がってしまいます。風向きが陸風の場所からの出航は控えるべきです。
一方で風が陸に向かって風が吹く海風では、波の速度は速くなりますが、波はさほど高くはなりません。ただし人の力では物理的に前へ進めなくなってしまう場合もあるので、風が強い日の出航はそもそも現実的に難しいとも言えます。
転覆時には、人が乗っていない状態の軽くなったパックラフトは驚くべきスピードで風に流されていきます。
ダウンリバーにおいては絶対に パックラフト・パドル・体 を繋いではいけないとお伝えしていますが、海や湖などにおいては繋いでおいた方が安全です。
波高は50cm未満としましょう。パックラフトはもともとダウンリバーを行う道具として開発されているので、滝からのドロップダウンや瀬で起きる大きなウェーブも乗り越える性能があり、比較的波に強い乗り物です。
しかし航行性能は決して優れた舟ではないので、波が高いと前へ進みにくくなります。
またパックラフトは浜からの出艇・上陸が基本となりますが、波高は浜辺付近で凡そ2倍の大きさになります。波高50cmであれば1mの波なので大きな問題にはなりませんが、仮に波高1mともなれば浜辺沿岸では2mもの大きな波になり、簡単に転覆してしまいます。
安全を考えると原則として湾内のみでの使用とし、風速 3m / 波高 50cm までの使用を推奨します。
外海に面した場所に出る場合はベタ凪の日に限定し、海岸まで泳いで帰れる距離に留めておくのが無難でしょう。
自然には逆らえません。風と波の情報は事前にしっかりと調べた上で海に出ましょう。
② 潮の流れ
海にも水の流れが存在します。引潮の際には岸から離れる方向に水が流れ、満潮の際には岸に戻る方向に水が流れます。また沿岸部には離岸流という、岸から離そうとする流れも部分的に発生します。( 離岸流について )
この為、満潮時間、干潮時間をしっかりと調べ、その時間に合わせての離岸・着岸を行うと楽に移動できます。例えば満潮時間から干潮時間にかけては沖に流れが発生するので、このタイミングに合わせて出航するとスムーズに沖に出られます。また逆に、干潮時間から満潮時間にかけては岸に向かって流れが発生します。この動きを考えずに出航すると、漕いでも漕いでも進まない状態になってしまいます。
岸にも戻ってきた際には、離岸流にも注意が必要です。
離岸流は横幅 20m 、長さにして 100m 程度のものが多いです。岸に向かって進み、もう間も無くといったところで一向に岸が近づかなくなったら、それは離岸流に乗ってしまっている可能性が高いです。その場合、少し横に進めば離岸流から脱せます。
風の流れと潮の流れは良く調べて行動しないと、岸に戻れなくなる可能性が高く、危険です。
しかし一方で、風を読み、潮の流れを読んで乗れば、航海は一層スムーズなものとなります。
しっかり事前確認を行いましょう!
③ 離岸距離
海上保安庁はミニボートに対し、岸から離れる距離を 1km 未満に止める様に注意喚起しています。これはエンジン故障時に手漕ぎで戻れる安全な距離を想定した距離の様です。
インフレータブルミニボートを手漕ぎで漕ぐのと比べればパックラフトの方が航行能力は高いですが、フィッシングカヤックなどに比べるとやや航行能力は劣ります。手漕ぎボート釣りのレンタルボートくらいの航行能力をイメージして頂くと良いと思います。
湾内で凪の時であればある程度遠くまで漕いでも問題ありませんが、外海ではベタ凪で 500m、僅かでも波や風があれば湾内や内海の 200 ~ 300m 以内の距離に止めるべきでしょう。
無風で波がない状態の時、パックラフトの航行速度は概ね 3km/h 程度ので、条件が良ければ 10 ~ 20 分くらいで戻れる距離となります。しかし風速 5m
程度の向かい風ともなれば、戻るのに30分以上はかかります。潮の流れが逆行すれば、1時間くらいかかる場合もあるかもしれません。もちろん風と潮の流れは良く見て航行判断すべきですが、急な天候変化などがあった際にも離脱できる安全圏は、ベタ凪の日で岸から 500m 程度までの距離です。
※ このページの冒頭写真で、概ね400m程度の距離です。
パックラフトフィッシングを楽しむのは、インショアゲームの範囲がベストです。
インショアゲームとは、岸から一歩出たエリアを指します。おかっぱりからのキャストでは100m程度までが良いところですが、そのもう一歩先。100 ~ 300m 程度のエリアに気軽に行けるのがパックラフトのメリットです。
水深にして 20m 程度の場所が多いでしょうか。このくらいの水深になると、真鯛や青物も射程圏内に入ります。タックルもライトなもので対応できます。パックラフトは軽い力で流れるので、M前後のロッド、2000-3000クラスのリール、PE1号前後のラインでも、ドラグを効かせて時間をかけながら取り込めば十分に戦えます。
いつもの釣りで届かないもう一歩先にロマンを感じる方にこそ、パックラフトフィッシングはマッチします!
海岸線ツーリングをするにしても、陸地が見えるこのくらいまでの距離で行う方が楽しいし、途中で休憩したり、寄り道したりするのにも適しています。
パックラフトの最大のメリットは " 電車でも旅に出れる、自宅での保管も全く困らない、圧倒的な軽量コンパクト性 " です。そして他の舟に比べて圧倒的に安価に楽しめる点が大きな魅力です。
海での舟としての性能は決して高いものではないことを理解し、十分に安全に配慮して使用しましょう。
④ 出航・上陸ポイント
なんとなく浜辺であればどこからでも出航できそうなイメージがありますが、浜には波が押し寄せる為、離岸するのは容易ではありません。また岩礁帯も貝などで船体を切り裂いてしまう可能性がある為、避けた方が無難です。
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その為、堤防や止波、テトラポット、沖磯、その他周辺地形により波が遮られ、穏やかな状態になっている浜辺から出航しましょう。
Googleマップ の航空写真で沿岸部を見て行くと、地形的に入江になっているポイントや人工物で囲われた場所があると思います。その様な場所から出航、上陸するのが良いでしょう。
ただし漁港のスロープなどは原則使用できません。また湾内にはカヤックなどの人力船の立ち入り禁止エリアが設定されている場合もあるので、必ず事前に調べておきましょう。
慣れないうちは囲われた海域から外に出ない様にしましょう。その範囲だけでも、陸からはアクセス困難な釣りやシュノーケリングのポイントが存在します。十分に経験を積んでから囲われた海域の外に足を伸ばしましょう。
この際、必ず風下側に陸地がある状態にしておきます。当日にならないと風向きが読めないことが多いので、風向きによって計画を変えられる様、いくつかのプランを用意することを推奨します。
万が一流された場合に備え、風下側にも囲われた地形の場所を見つけておきます。こうする事によって、緊急時にも逃げ込むことができます。
⑤ 三角波
パックラフトにとって特に怖い波が三角波です。風向きや潮の流れなどがぶつかり合った時、鋭く尖った波が突然海面から立ち上がります。これがパックラフトの真下で発生すると、宙を舞いながら転覆することとなります。極めて危険です。
特に岬などで風裏となり穏やかな湾や入江から、岬を回って外洋に出る際などには特に注意が必要です。
風の流れ、潮の流れによってどの様にうねりが起こるのか、それがどこでぶつかり合うのかを想定し、予め危険を避ける様にしましょう。
またそもそも風が強い日の出航を避けるだけで、三角波を受けるリスクを大きく低減できます。再三になりますが、予め気象情報を良く確認し、本当にその日に海に出て大丈夫かを徹底して確認して下さい。
⑥ 霧
霧は気温が急激に変化した時や、海水温と川の水温の温度差が大きい時の河口付近、寒潮流と暖潮流が合流する場所、海水温と気温の差が大きい時などで発生します。いずれの場合も、風が無く、波が穏やかな時に発生しやすい傾向にあります。
場合によってはまったく視界が効かず、極めて危険な状況となる場合もあります。安全な場所ならGPSで現在地を正確に把握しながら移動しても良いですが、岩壁や岩礁が続くエリアや船の往来が多いエリアでは、霧が薄くなるまでアンカーを下ろして停止ししている方が良いかも知れません。
特に濃霧の中では他船からパックラフトが全く見えなくなります。移動するにしても、その場に留まるにしても、他船の音を確認しながら、自船もホイッスルを定期的に吹いて存在をアピールしましょう。
⑦ 他船の危険
海にはたくさんの船が航行しています。そしてパックラフトは海の中で特に小さく、見落とされやすい存在です。
当然、接触事故が起これば命の危険すらある上、相手にはぶつかった事すら気づいてもらえない可能性すらあります。
認識旗(明るい色の旗)を高い位置に掲げると共に、明るい色の服装、海や動力船が航行する湖や川で使用する予定があるなら、パックラフトの色も明るい生地を選択した方がより安全性が高いでしょう。特に認識旗の存在は重要で、かなり遠くからでも認識できます。釣竿などで高い位置に掲げることで、安全性が飛躍的に高まります。絶対に装備しましょう。
その他、他船が近づいてきた時にはホイッスルを吹いて存在をアピールするなど、自分は見られていないものだと思って対策を行いましょう。
⑧ 夜間航行の危険
夜の海は極めて危険です。まず何より一番の危険は、前項にも挙げた様に他の船から見えにくいこと。発電機などを積んで投光器でも設置しない限り、ちょっとやそっと光を放ってもほとんど気付いてもらえません。
また座礁してパンクし、沈没しても、夜の海ではまず見つけてもらえません。長時間海に投げ出されていれば、低体温症などで命を落とす危険が高くなります。基本的に夜間の航行は避けましょう。
⑨ 座礁の危険
どんな船でも岩礁への座礁は危険ですが、インフレータブルボートであるパックラフトでは特に大きな危険を伴います。
岩礁には牡蠣やフジツボなど、鋭利な殻で覆われた貝が付着します。その殻に接触すれば、パックラフトの生地が裂ける危険性があります。こうなれば荒れた岩礁で沈没するリスクもあります。
海で使用するパックラフトは、できれば二気室、三気室構造を持ち、万が一のパンク時にも浮力が残る構造が望ましいと言えます。また可能な限り厚い生地のものを選択し、万が一の座礁時にもパンクするリスクを可能な限り避けられるのが望ましいでしょう。
そして何より、岩礁に乗り上げないことが何より大切です。
釣りなどで岩礁に近付く場合もありますが、決して乗り上げない様にしましょう。着岸するに適してそうなスロープ上の形状をしている場所もあったりしますが、大変滑りやすいですし、パンクリスクも高いので避けましょう。
どうしても上陸の必要がある場合は、小さくても砂浜や砂利浜になっている場所を探しましょう。
浅瀬では喫水沈範囲に沈む暗礁に接触する場合もあります。この上を通過する際に、水位が下がると、パックラフトは簡単にひっくり返されてしまいます。特にうねりが大きい時は水位の上下幅も大きくなるのでリスクが高まります。
風や潮の流れと共に、うねり、波浪などについても事前に調べておく必要があります。
⑩ 低体温症の危険
水は空気の20倍以上の熱伝導率を保つ為、凄まじい早さで体温を奪います。例えば冬の関東圏の海水温は凡そ10℃前後まで下がる場合がありますが、凡そ1時間で意識消失し、3時間程度で死亡します。真夏であっても、凡そ12時間で意識消失、48時間で死亡します。
この為、万が一の沈没に備え、しっかりとした防寒対策が求められます。秋から春の寒いシーズンに海に出る場合は、ドライスーツの着用を強く推奨します。水の中を泳いでも内部の衣服が濡れることがないので、熱が奪われるスピードがとても緩やかになります。(ドライスーツについて詳しくはこちら)
春から秋のシーズンはドライスーツを着用していると熱中症のリスクがあるので現実的ではありませんが、レインジャケットなどを一枚羽織っておくだけでも水の対流が防げ、体温低下のスピードが緩やかになります。
PFDは固定式のものを使用しましょう。海釣りなどでは自動膨張式のライフジャケットが使用されますが、大きく膨らむので落水時に再乗艇が困難になります。またウレタンフォームが入った固定式PFDであれば、胸部の保温力がとても高く、低体温症のリスクを大きく低減してくれます。(固定式PFDについて詳しくはこちら)
パンクして沈没すれば、身一つで海に投げ出されます。そのリスクがある以上、防寒対策は怠るべきではありません。特にドライスーツの有無は、安全性はもちろん、快適性の面でも大いに役立つので、ちょっと高い買い物ではありますが用意することを強く推奨します。
ダウンリバーに比べると危険が少ない様に思われがちな海でのパックラフティングですが、川の流れとはまた異なるリスクが海にもあります。その点において十分な注意と認識が求められます。
しかし同時に、海のパックラフティングにもまた、ダウンリバーとは異なる楽しみがあります!
風と潮に乗って沿岸部をツーリングしたり、陸っぱりからでは届かないポイントに仕掛けを落とすなど釣りの幅が大きく広がったり。
シーカヤックでは置き場所や運搬などの関係でできなかった遊びの在り方が、パックラフトなら実現できちゃうんです!
どんな危険があるかをしっかりと把握し、その対策を行なった上であれば、パックラフトの遊びの幅はさらに広がります。ぜひ大海原にも乗り出してみましょう!!
その前に、万が一の事態に備え、必ず通信は確保しましょう!
スマートフォンは紛失しない様にPFDのポケットにしまい、防水対策を行います。
万が一の緊急時には " 118 " (海上保安庁) に早めに連絡し、救助要請をお願いしましょう。
できれば、衛星通信手段を用意できると尚良いでしょう。
事故の無い様、安全に楽しみましょう。