パドリング技術

 

パックラフトを漕ぐと言うことは、大きく分けて " 進む " と " 曲がる " をしっかりと操作すると言うこと。
その為に行うのが、" パドルを立てて漕ぐ "、" パドルを寝かせて漕ぐ "、" 荷重移動 " の3つになります。細かいテクニックはありますが、基本的にはこの3つを組み合わせてパックラフトを操作することになります。

ここでは、実際に漕ぎ出す前に最低限知っておいてもらいたい基本となる動きについて解説します。

 

 

パドリングの基本

 

 

まずパドルの基本設定です。パドルによって角度が予め決められているものと無段階調整のものがありますが基本的に利き手側のブレードを手前に捻る方向に角度設定します。

フラットウォーターなら概ね 60° 前後、ダウンリバーなら 35° ~ 45° 程度に角度をつけると良いと思います。強い角度ほど空気抵抗が減り、素早いパドリングの時ほど返しが少ない方がスムーズです。ただだからと言って、90°近くまで角度をつけると手首が痛くなりやすく、0°付近の浅い角度だと水を切ってしまうミスが増えます。


利き手のブレードが真上を向く様にパドルを地面に置き、そのまま真上からパドルを持った状態が適切なポジションとなります。この時、肘の角度が 90° になる様にしましょう。

 

利き手を固定したまま、反対側の握りを滑らせて持ち替えを行いながら、ブレードが水をしっかりと捉える様にパドリングを行います。実際にパックラフトに乗る前に、しっかりとパドリングムーヴを練習しておきましょう。

 

右手を固定したまま、左手の握りを滑らせて左側を漕ぎます。

 

右を漕ぐ場合、右手の握りは動かさず、左手を滑らせて角度を作ります。

 


 

フォワードストローク

 

 

パックラフトは左右交互にパドルを漕ぐので、どうしてもまっすぐの入力にならず、舟を回転させる方向の力が働きます。常に左右に振られながら、ジグザグと前へ進む特性があります。まっすぐに進むには、船体側面に発生する抵抗より小さな回転モーメントになる様に漕ぐ事で、回る力は直進する力へ変更されます。

前へ進む為のパドリングをフォワードストロークと言います。

パドルは可能な限りまっすぐ漕ぐ方が有利です。よりパワフルでスピーディーなパドリングをしても。まっすぐな入力であれば舟の振られは最小限ですみます。パドルをまっすぐ立てた状態での漕ぎをハイアングルパドリングと言います。

この時、パドルを水に刺した側を引くのでは無く、そこを起点に腰へ移動させつつ、空中の手を前にパンチする様に押すイメージで漕ぐと効率が良いです。パドルをまっすぐに立てれば立てるほど、強力な推進力を生み出せます。舟の回転ピッチがコンパクトになるので、素早く左右のパドリングを繰り返すと良いでしょう。

ただこの様なパドリングはとても疲れます。長距離を漕ぐ場合、ゆっくりとしたストロークを行う方が俄然楽に漕げます。舟の横方向の抵抗を意識し、船体が大きく曲がらない範囲の出力を意識してパドルはやや寝かせ気味に丁寧に漕ぎます。これをローアングルパドリングと言います。
ただしパックラフトの場合は側面抵抗が少ないので、ローアングルパドリングではスウィープストローク(旋回する漕ぎ)になりがちです。全長が長く、キールやスケグの抵抗が大きな船体であればローアングルパドリングでもフォワードストロークになりますが、そうでない場合はどうしてもハイアングル寄りなパドリングになります。

しっかりと漕ぎたい時はハイアングル気味にガシガシとハイパワーで、ゆったり長距離漕ぎたい時はスウィープストロークにならない範囲でローアングルでゆっくりと。
部分的にしっかりと漕がなければならないダウンリバーではハイアングルでのパドリングが主となり、湖などのフラットウォーターではローアングル気味にしなやかに漕ぐ事になります。この特性を活かす為、ダウンリバーでは太く短いパドルを、フラットウォーターでは細長いパドルを使用すると効率が良くなります。

 

 

ハイパワーで前に進むには、しっかりパドルを立てたハイアングルで、ガシガシと力強く素早いパドリングを行います。

 

長距離ではローアングル気味に、ゆったりと長いパドリングを心がけましょう。この時、船体が左右に触れないスピードとアングルを意識します。

 


 

スウィープストローク

 

 

フォワードストロークは舟を前に進める漕ぎ方でしたが、スウィープストロークは舟を回転させる漕ぎ方です。

船体側面に発生する水の抵抗を上回る回転方向の力を発生させれば、パックラフトの向きが変わります。

回転させたい方向とは反対側のパドルをローアングルにし、なるべく遠くを円を描く様に漕ぎます。ハイアングルでもスィープストロークを行うことはできますが、かなりのハイパワーでないと回りません。ローアングルの方が遥かに楽に旋回できるので意識しましょう。
この時、ブレードは全て水の中に入っていなければなりません。水をかいてしまわない様に注意しましょう。

 

さらに急旋回させたい場合、バックストロークと言うパドリングテクニックも使います。
この場合、曲がりたい方向にパドルを入れ、後ろから前に向かってストロークします。ただしかなり強烈な回転がかかるので、ローアングル漕ぐと一気に真逆を向いてしまう場合があります。また、急激なブレーキがかかるのでかなりハイパワーなストロークが求められます。
パドルをハイアングル気味に、力を入れて後ろから前へ水を押しましょう。急旋回する事ができます。

 

スウィープストロークはローアングルでなるべく遠くを漕ぐ。

 

バックストロークは強烈なブレーキがかかるので注意!

 


 

前後荷重

 

 

パックラフトを漕ぐ時は、基本的に体を起こし、やや前荷重気味に乗船します。後ろにダラーっと寝そべる様に乗っている人を見かけますが、バックウォッシュやストッパーができている箇所で、バックドロップを喰らう様にフリップしてしまいます。また左右の安定性も極めて悪くなります。
パドリングにおいても後傾した状態では腕の力だけで漕ぐ事になります。しっかり前傾姿勢をとり、パドリングの動きに対して自然に腰を捻りながら前に出し、腕だけでは無く腰の動き、上半身全体の動きを使ってパックラフトを前に進めます。パドリングによって発生する回転の動きは、反対方向に回転される腰の動きに打ち消され、直進するエネルギーへと変換されます。
もちろんいつもここまで意識したハードなパドリングをしなくても良いのですが、例えば瀬で加速して強烈なホールを突破したり、海や湖で向かい風に進まなければならない場合などは、これらの点に意識する事でパドリングの効率が極めて高くなります。

 

後ろ荷重だと左右にバランスを崩しやすい。

 

前荷重にする事で、効率良く、安定したパドリングが行える様になる。

 


 

左右の荷重

 

 

パドリングだけで無く、左右への体重の預け方でもパックラフトの旋回を高める事ができます。
例えば体重を左に傾けたとしましょう。すると右側のチューブにかかる荷重が減り、代わりに左側のチューブにかかる荷重が増えます。総体浮力は低下する事となるので、これまでより生粋が深くなり、より強い側面抵抗を受けます。舟が前に進んでいる状態でリーン(舟を傾ける)すると、斜め前方から水圧を受ける事となり舟の向きを左方向へ押し込む働きが生まれます。パドリングを行わなくても、リーンするだけでパックラフトは曲がって行く事ができます。
この時注意しなければならないのが、前傾姿勢を保つ事。後傾した状態で左に傾けると、スターン右側に強い圧力を受け、傾けた方と反対方向に旋回して行きます。曲がろうとしているのにカーブしている箇所の壁に吸い込まれがちな方は、姿勢が後傾している可能性が高いです。しっかり前傾姿勢を保った上で、曲がりたい方向に荷重を乗せましょう。(無理に舟を傾けるとフリップするので注意。チューブに荷重を預ける感覚が大切で、無理に傾ける必要はありません。)

 

曲がりたい方向に荷重を預けると、舟は勝手に曲がっていく。

 

ただし後傾していると、体重を預けた側とは逆向きに曲がっていく。

 


 

まずはこれらのパドリングを、湖などで練習するところから始めると上達が早いはずです。
静水での練習では、パドリング練習に加え、再乗艇訓練、WWFPの姿勢訓練も徹底して行って行きましょう。

これらの事が静水で確実に行える様になったら、次はダウンリバーに挑戦です。可能な限り流れが穏やかなフィールドを選択し、操船基礎技術をしっかりと習得します。
少しずつステップアップすれば、大きな危険を伴わずに成長できるはずです。