この様な後傾状態では、舟の性能は著しく低減します。
パックラフトのルーツは、アラスカの荒野を旅する上で、度重なる大きな川の渡渉を行う為の道具でした。そこから部分的に川を下る様になり、やがて川旅の道具として発展した経緯があります。
大きな荷物を乗せることを前提に設計されていることもあり、荷物の量が少ない場合には写真の様に後方荷重になりがちです。こうなると舟としてのあらゆる動きが悪くなります。舟とは、水面に対して水平の生粋を保たなくてはなりません。(大型貨物船などでは、意図的に船内に水を入れて水平を保つ機構まで備えてるほどです。)
そこで山童では、船種別に様々な工夫を凝らし、前後荷重配分比を限りなく50:50に近づける設計を施しています。
例えば " 源流 " では大きなスターンを設けています。これでも一見するとやや後方よりに座っている様に見えますが、実際にはバウのロッカーが強いので喫水線のほぼ中央に着座しています。
この様に種別にその特性を踏まえた上で、喫水を水平に保つ様に作っています。それには理由があります。
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オレンジが着座位置。赤丸が重心位置。
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後方荷重ではバウ側の喫水が浅くなり、横方向の抵抗が小さくなります。またスターンが小さいとスターンの側面の抵抗も小さくなります。
こうなるとパドリングの推進力を直進方向に変換できず、無駄にくるくる回るだけで前へ進まなくなります。ではよく曲がるかと言うとそうでも無く、前方向・横方向の動水圧が拮抗し、乗り手の意思に関係なくただ流されていく状態になってしまいます。(タライをイメージすると分かりやすいのではないでしょうか?)
パドリングによる回転エネルギーを、側面に発生する動水圧で方向転換させる事で、パックラフトは推進力を得ています。
曲がる為にも、側面の抵抗がなければ進みたい方向に進めません。
喫水が水平になる事で、重心位置を中心に前後に前後の喫水深が同じになり、船体全体の横方向から加わる動水圧が均一化します。
着座位置を中心にパドリングが行われますが、この際力点より前方の側面抵抗が後方より僅かに大きいことも、推進力変換を促進してくれています。
前後荷重配分比の均一化の効果は、フラットウォーター(静水)、ダウンリバー(流水)問わず、大きな影響があることがわかると思います。
これに加え、前後荷重配分比が均等化することで小滝からのドロップやホールでウィリー状態に陥りにくくなります。スターンが水に食われてしまうと推進力が奪われ、反転流に捕まってしまいます。
後方浮力を高めることで落下エネルギーを推進力に変換でき、突破力が高くなります。
同時に左右の安定性も高くなるので、パックラフトにおいては極めて効果的な設計であると言えます。
こうなってしまうと転覆する可能性が極めて高くなる。
山童のパックラフトは、前後荷重配分比について徹底的にこだわった設計を行なっています。
基本的には船体中央に着座位置を近づけ、前後荷重配分比を均等にしています。しかし " 流浪 " ではバウを拡張させる事で前方浮力を高め、自転車や重たいキャンプ道具など、重量物を運搬する際にバランスが取れる設計にしたり、" 明鏡止水 " では二人乗り時にはバウに荷物を乗せる事で全体的なバランスを取りつつ、一人乗りの際には着座位置や荷物配置を変え、中央に重量があつまる設計にしたりなど、山童では船体別に様々な工夫を凝らして理想的な前後荷重配分地となる設計を施しています。