パックラフトの場合、主にナイロン生地にウレタン系のコーティングを施した素材が使われています。ラフティングボートやダッキー、SUPなどに使われているPVCに比べると少し弱い生地になりますが、その分圧倒的に軽量コンパクトになる特徴があります。
パックラフトのチューブには、主に 70D、210D、420D の3種類が使われ、基本的には片面のみのコーティングを施したシングルコート生地が使われます。
ボトム生地には 210D、420D、840D の3種類の生地が主に使われており、どちらの面も表に剥き出しになっている為、基本的には両面にコーティングを施すダブルコートが使われます。またボトム生地にはケブラー繊維が織り込まれており、チューブ生地よりさらに引き裂き強度の高さを得ています。(その分ゴワゴワしますが…。)
パックラフトをこれから買う人は、生地はぶ厚いほど安心なんじゃないかと思われるかもしれません。
当然の事ながら生地が厚くなればそれだけ丈夫になり、より高い圧力で空気を入れる事で剛性を高めたり、激しい衝突でもパンクしにくくなります。舟としての性能をより高めてくれるでしょう。
それは確かにその通りなんだけど、例えば 210Dチューブ / 420Dボトムと、420Dチューブ / 840Dボトムでは、収納サイズも重量凡そ1.5倍もの差になります。メリットとデメリットは同時に存在します。
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パックラフトの特性とは " バックパックにパッキングできるラフティングボート " であり、軽量コンパクトである事にこそ価値があるのではないでしょうか?
高難度な激流を下るには確かに生地が厚い方が有利ですが、だったらPVC生地のダッキーを選択する方が遥かにダウンリバー性能が高くなります。
強度や性能を犠牲にしてでも冒険の為の軽い舟が必要だったからパックラフトが開発されたのです。
であるならば、可能な限り軽い素材を使用し、軽量コンパクトな設計にすべきだと山童では考えます。
とは言え、旅の途中で故障してしまっては困ります。性能面にも悪影響を与えるのは望ましくありません。
素材特性を理解した上で適切な素材選択を行うことが重要です。
もっともダメージを受けやすいのはボトム生地です。そして重量や収納時体積にも影響を与えるのもボトム生地です。そして、ボトム生地は薄くても厚くても、舟の性能に直接影響を与えない点も考慮すべきポイントです。
山童では、" 山紫水明 " には 210D ボトム、" 源流 " " 明鏡止水 " " 童心 " には 420D ボトム、" 流浪 " 高山流水 " には 840D ボトムを採用しています。
210D ボトムは言うまでもなくデリケートなボトムではありますが、徹底的な軽量コンパクトを追求したい " 山紫水明 " には他の選択肢は無いでしょう。
確かに 210D ボトムは他の生地に比べると強くはありませんが、硬い荷物を直接フロアに置くなどしなければ、そうそう裂ける様なトラブルは起きません。小さなピンホールが開く場合はあるかも知れませんが、フロアにピンホールが空いてもリスクには繋がりません。
圧倒的な軽量コンパクトを実現するために、強度を犠牲にした製品ですが、これはこれで一つの答えだとも思える完成度の製品に仕上がっています。
420D の生地は 840D の生地に比べると薄く感じるかも知れませんが、実際にこのくらいの厚さがあるとそうそう穴が開く事も無くなります。
完全に底を擦る様な状況では、可能な限りランニングダウン(下船して船を引いて歩く)やポーテージ(船を持って迂回する)した方が良いかも知れません。しかし普通にダウンリバーを行っている限りは簡単には裂けない強度を持っています。
重量と強度のバランスに優れています!
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840D となると、極端に収納サイズと重量が上がります。なので基本は 420D を軸に考えるべきだと山童では考えます。
しかしバイクラフティングなど重い荷物を積載した状態でのダウンリバーを前提とする " 流浪 " では、ポーテージする際の手間も大きくなります。底をする場面でもランニングダウンせざるを得ない場面も多くなります。岸に接岸する際も、バウに重い荷物を乗せたまま少し乗り上げる場合もあります。この為、" 流浪 " には 840D のボトムを採用しています。
" 高山流水 " は水量の多い流れの中をダウンリバーする事が主な使用目的となるので、底を擦る事はさほど多くはないでしょう。しかし絶対的な性能を得る為のボトム一体式インフレータブルフロアは、小さなピンホールひとつで性能が低下してしまいます。故障を避ける為、840D の採用が望ましいでしょう。
また 840D を採用する事でボトム一体型インフレータブルフロアに高圧で空気を入れる事ができます。この事はさらなる高剛性化にも役立ちます!
チューブに関しては、" 高山流水 " を除くすべての製品に 210D の生地を採用しています。確かに " 山紫水明 " においては 70D チューブを採用することによってさらに 200 ~ 300g 程度の軽量化も見込めますが、チューブに穴が開けばそれは即沈没に繋がりますし、内圧も上げられないので船体剛性が下がり、ダウンリバーには全く適さないパックラフトになってしまいます。
210D は他ブランドにおいても主要で使われる素材厚であり、重量と強度のバランスに優れています。
一方 " 高山流水 " は、ダウンリバー性能を極限まで高める事を目的に開発されている為、徹底して重心を下げる為の施策として内部ストレージシステムを搭載しています。
スターン(船尾)に設けた Tizip と言う完全防水のファスナーからチューブ内にアクセスし、座席の真横付近に直接荷物を入れる設計になっています。ポーテージの際にパックラフトと荷物分離できないので運搬がとても大変になり、お世辞にも日本の川旅には適さない機構ではあるのですが、低重心化による圧倒的なダウンリバー性能を得る為には、実に合理的な設計であると言えます。
ただチューブの生地にかかる負担は大きくなるので、生地は厚くあるべきです。この為、420D もの分厚い生地をチューブに採用しています。
同時に、420D になる事でより高い内圧にも耐えられる様になります。より高い船体剛性も得られるので、超高難度な激流を下る事を目的とした " 高山流水 " にとって、420D の生地は大きな味方になります。
こう聞くと厚い生地の方が性能が高いのでは無いかと思われがちなのですが、パックラフトにおいては収納サイズもとても大切な性能だとも思うのです。
激流のホワイトウォーターを目的とするなら " 高山流水 " は極めて高性能で優れたパックラフトですが、その収納サイズは 35L 程度と大きく、重量も 5kg あります。例えばテントや寝袋、調理器具などを一式をバックパックに収めた上でパックラフトも収納するとなると、そのパッキングサイズは 80L 程度と大きく、重量もかなりの重さになってしまいます。
やってできない事はありませんが、川旅や山岳パックラフティングを主とする場合には適さないでしょう。
大切なのは使用目的に合わせた素材の選択です。なんとなく丈夫そうだからで 420D チューブ、840D ボトム(特にボトムの生地厚は収納サイズに凄まじく大きく影響します)を選択しない方が良いです。
背負って長距離歩くのか、舟の全長や全幅、チューブ径などを考慮し、実際の収納サイズや大きさがどの程度になるのか。この辺りのことを良く考え、ご自身の目的にあった製品を手にしましょう。
山童では、各製品の使用目的を明確化し、それに合わせて適切な生地の選択を心がけています。
まずは自分自身がどんな使い方をしたいのかを考え、製品選びを行いましょう!